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  ホーム >> frunブログ集 >> 13年 時を隔てて また号泣〜第30回記念北海道マラソン完走記3

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link Road to SAROMAN BLUE Road to SAROMAN BLUE (2024-10-10 15:00:05)

feed 13年 時を隔てて また号泣〜第30回記念北海道マラソン完走記3 (2016-9-2 23:25:20)

(3)自己暗示

 朝、5時過ぎに目が覚めました。外はどうやらいい天気のようです。目覚ましは6時にセットしていますが、スタート時刻は9時ですから、5時頃に起きるのがちょうどいいはずです。でも私はそのままベッドの中にとどまっていました。

 前夜の時点で覚悟を決めて走ることにしました。でもこうして当日の朝を迎えると、怖さが急に大きくなってきました。それはまるで初めて北海道マラソンに挑むあのときのように、いや、それとはまた異質の怖さです。

 初めて北海道マラソンに挑戦したのは今から13年前のことです。走り始めて4シーズン目。マラソンはまだ3回しか走ったことがなく、4時間を切ったこともありませんでした。しかし参加しているランナーは大半が4時間を切っているエリート市民ランナーたちです。スタート地点である真駒内公園に行ったとき、会場内の空気が私の知っているマラソン大会とは全然別物であることに気づき、ものすごいアウェー感に襲われました。

 北海道マラソンというのは私が知っている世界とはまったく違う世界であることをそのときに知りました。このときに私が感じた怖さは、未知のものに対する怖さでした。

 あれから13回の北海道マラソンに出てきました。コースも変わり制限時間も変わり、当時とはまったく違う大会へと変貌を遂げました。リタイアも2回経験しましたが、11回の完走を重ねてきました。

 北海道マラソンのことは今ではよくわかっています。わかっているからこそ、今の私には大きなハードルであることもわかっています。今回私が感じている怖さは、既知のものであるが故の怖さでした。北海道マラソンの壁の高さを知り尽くしているからこその怖さでした。

 そんな怖さがベッドの中の私に覆いかぶさり、私はベッドの中で金縛りのような状態になっていました。

 それでも時間は刻一刻と過ぎていきます。6時になってアラームが鳴ると、私は渋々ベッドを出ました。前夜のうちに朝食用に買っておいた納豆巻を食べ始めますが、どうにも食欲がありません。1個ずつ、無理やり胃袋の中に収めていきます。

 食べながらもどうするか迷っていましたが、ここまできてやめるわけにいかないことは、頭の中ではよくわかっていました。怖いから途中で帰ろう、なんてことは自分らしくありません。たださらにハードルを低くするため、目標を設定しなおすことにしました。

「目標 スタートラインを越えること」

 DNSという選択肢が常に頭の中にあり、ここまでその誘惑と戦い続けてきました。そして今、最後の戦いをしています。その戦いに勝ってDNSを避けること。そのあとはつらくなればやめればいい。走り出してからどうするか考えればいい。今はともかくスタートすることだけに集中しよう。それなら何とかなりそうな気がします。

 納豆巻を食べ終えて、ようやく準備を開始しました。ウェアに着替えたりトイレを済ませたりしてスタート時刻が近づくのを待つことにしました。

 ところが準備をしているうちに大変な忘れ物に気がつきました。それは絆創膏です。乳首擦れを防ぐために貼って走るのですが、これを忘れてマラソンを走ったりすると大変なことになります。それだけでも十分にDNSの理由になります(笑)。

 でも絆創膏ならコンビニでも買っていける。そのことに気づいたおかげで、これはDNSの理由にならなくなりました。しかもゼッケン留めなどを入れている小物の袋を探ってみると、その中に以前用意しておいて使わなかった絆創膏が入っていました。事なきを得ました。

 例年は7時30分頃までに大通公園に行き、チームのメンバーと集合して記念写真を撮りました。しかし今年は事前の呼びかけへの反応が薄かったため、それをやめました。

 でもこれは、自分が走ることだけを考えると非常に助かりました。というのも、この集合写真がなければスタート1時間半前に海上まで行く必要はなく、ホテルの部屋でギリギリまで準備をできます。長蛇の列に並んで会場内の仮設トイレを使う必要もなく、部屋でゆっくり済ませていけます。これでかなり楽になりました。

 準備を終えてからバナナを1本食べ、8時5分になったところで部屋を出ました。スタート前最後の補給としてゼリーとスポーツドリンクを口にしながら向かいます。ホテルがある7丁目から私のスタートエリアとして指定されている4丁目まで、ゆっくり歩いていきました。

 4丁目ではチームメイトのてるきちさんと会いました。ともに前泊組ですから、てるきちさんもやはり今年のように事前集合なしの方が準備をしやすかったとのことでした。やはり走ることに集中するためにはこちらの方がよさそうです。

 てるきちさんと別れ、ゼリーを食べてしまうと、もうウロウロしている必要はありません。荷物をまとめて預けてしまい、スタートエリアに向かいました。部屋を出る前にしつこくトイレに寄ってきましたから、もうトイレに寄る必要もありません。

 Dブロックのスタートエリアには多くの人が並んでいました。でも私は後方でかまいません。ゆっくり走るしかありませんから。

 スタートエリアに入って座っていると、うしろからしぶままさんに声をかけられました。びえいヘルシーマラソン+旭山動物園・美瑛・富良野観光に興味があるということで、しっかりとPRしておきました。

 スタートまで20分を切り、MCが大会の雰囲気を盛り上げにかかります。それを聞きながら私は自己暗示を始めました。気持ちで走るタイプの私。気持ちが最大の武器である私。ところが今年の私はその武器を使えません。いまさら強気な自分を取り戻そうとしても無理でしょう。しからばせめて弱気な自分を追いやろう。そう思っての自己暗示でした。

 自分に言い聞かせたのはただひとつです。

「もう結果はどうでもいい」

 昨年11月から今年6月までの走行距離は8ヶ月間でわずか143kmでした。7月に134km、8月に118km走ってここまできましたが、これで北海道マラソンを完走できるほど甘くはありません。

 そんな中で怖さと戦いながらようやくここまでたどり着きました。スタートラインを越えてしまえば、私の中に巣食っている弱気な私に勝利できます。そこで勝利を収めてしまえば、あとは戦う相手はいません。あとは戦うことなく、行けるところまで北海道マラソンを楽しめばいいのです。「完走しなければならない」と思ってしまうととてもとてもつらい時間の連続となってしまうでしょうから。

 そんな内容のことをブツブツブツブツ呟きながら、自己暗示をかけていきました。

 やがてスタートまで1分を切りました。テレビ塔の時計がカウントダウンを始めます。

「10秒前、9、8……」

 MCに合わせてランナーもカウントダウンを始めます。そしてテレビ塔の時計が0になるのと同時に号砲が鳴り響きました。(つづく)


(1)最大のピンチ
(2)踏ん切りつかず


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