（２）いいかげんなカウントダウン

　6時間リレーマラソンのときはタイツを忘れるという大失敗を演じました。今度こそはそのようなことのないようにと、前日にしっかりと準備をしました。タイツが入っていることは何度も確認しています。今度こそ大丈夫です。

　受付は8時30分からです。そのため7時20分過ぎに家を出ました。途中のコンビニに寄っておにぎりと飲み物を購入し、約1時間のドライブに出発です。

　絶好の天気に恵まれて雨の心配はまったくありません。逆に暑さ対策、熱中症対策を考えなければなりません。そんな天気の中、順調に車を走らせます。

　予定通り、8時30分をちょっと過ぎた頃に大会会場に到着しました。



　駐車場に車を収めて、受付に行きます。受付を済ませた後、同行した奥さんの分のレセプション券（おにぎり・肉・にしん・きゅうり、ドリンク1杯）を買い、温泉の割引券をもらいました。

　それから開会式やレセプションの会場となるおろちゃんランドにシートを敷き陣地を確保しました。小さな木の傍にシートを敷き、少しでも日陰を確保できるようにしました。

　この大会に出るとプログラムを開くのがとても楽しみです。過去の大会の優勝者の名前が載っており、3年前の大会のところには私の名前もしっかり載っています。

　陣地を確保した後は、着替えをしてきました。それからウォーミングアップに向かいました。

　走り始めて最初に感じたことは

「やばっ、重い！」

　でした。体がというより体の動きが重いのです。なんだかギクシャクしているような感じでスムーズに動きません。前日走っていないせいでしょうか。ちょっと不安になってきました。

　約1.5キロをキロ7分のペースで走りましたが、びっしりと汗をかくほどの暑さです。今年は6キロでよかったと、心の底から思いました。

　おろちゃんランドに戻るとすでに開会式が始まっています。私は慌ててそこに加わりました。そこで知り合いのランナーと会うたびに、私のナンバーカードの色を見て（10キロは黄色、6キロはピンク）「あれっ？6キロなの？」と言われてしまいました。今年だけは許してください。

　開会式が終わると私はいったん総合体育館の中に行きました。暑さを避けるためです。スタート前に消耗しないように、10分前までは中にいることにしました。

　絶好のビール日和です。走った後のビールが、今日は格別にうまいでしょう。ところが私は奥さんに対し信じられないような発言をしたのです。

「今日は俺が帰りも運転するからビールを飲んでいいよ」

　あれほど今日のビールを楽しみにしていたはずなのに、なぜかこのときはビールを飲むという気になりませんでした。聞けば奥さんも今日の運転は気が乗らないと思っていたようなので、ちょうどよかったようです。

　やがて館内の時計は10分前を指しました。私は外に出ました。まもなくスタート地点に集合するよう命じられました。

　前に10キロ参加選手。その次に6キロ参加選手。その次に4キロ参加の小学生とファミリーの選手、という順番で並びます。例年は2、3列目に並ぶ私ですが、今年は6キロなので中団に位置する形となりました。

　スタート前には恒例となっている万歳をします。これは腕時計をつけていないということを確認するためのものです。そうした指示やスタート前のカウントダウンは、例年は年配の方がやっていました。これがなかなか面白くて和ませてくれていました。

　しかし今年は別の方がやっていました。そしてハンドマイクを通して切れ切れに聞こえてくる声は、

「……先輩が……黙祷を捧げます……」

　えっ？もしかしてあの方、亡くなったの？ちょっと動揺しながら黙祷を捧げました。

　この大会、スタート前のカウントダウンは、実にいいかげんでした（笑）。「スタート3分前」と言ったと思うと、間をおかずに「スタート1分前」になったりしてあちこちで苦笑が漏れたものです。でも誰も「俺の時計じゃ2分も経っていないよ」という文句は言いません。言えません（笑）。あの名調子が懐かしく思えました。

　しかしその伝統はしっかりと受け継がれたようです。

　「スタート2分前」と言った後、すぐに「スタート1分前」になりました。それから「10秒前」まであっという間でした。

　でもそこからはみんなと一緒にカウントダウンです。

「10、9、8、7……3、2、1、ゼロ」

　と同時に号砲が鳴り響き、今年のオロロンライン全道マラソンがスタートしました。（つづく）


（１）相性の良い大会


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