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熊本震災支援業務を振り返る(1) (2016-6-5 14:05:19)
早いもので熊本県益城町に震災支援業務で赴いてから1ヶ月が経過しようとしている。その時に見たもの、感じたことを体系的にまとめて記録せねばと思いつつ、なかなかじっくりと腰を据えて取り組む時間がなくて困る。1つの記事ではとても語りつくせないので、細切れで今後ちょくちょくと出していくつもりだ。
まずは地震による建物被害を目の当たりにして考えたこと。直下型地震ということもあり、1995年の阪神・淡路大震災時の神戸のことが記憶にあったので、それに近いイメージであった。熊本市内でも、外見上被害が何ともなく既に正常に動いているところもあれば(むしをそれがほとんど)、酷いダメージを受けてどうしようもない建物が混在していた。これが益城町では、ある一定の区域においてはほぼ建物全滅、それも耐震基準は満たしていそうな新しめの家でさえやられている状況であった。
今後も分析が進むのだろうが、昔は河床だった土地、池や沼だったところを埋め立てた土地などについて、地盤が緩いために局所的に揺れが大きくて、新しい家ですら耐えられなかったということが一つ考えられる。これについては、かつての阪神・淡路大震災でも、倒壊した家が多い区域にはそうした因果関係があったと聞き及んでいる。言いたいことは要するに、そういう土地には本来人の住む家を建てるべきではなかったのではないか、ということである。
これは地震に限らず、水害や土砂災害でも一緒の話であり、そういうリスクのある土地は、いにしえの知恵で家を建てていなかったのに、人口が増え住宅が足りないということで、どこかしこでも住宅地にしてしまったことが新たな被害を生む要因になったのではないだろうか。住宅用の土地を買う際に、駅からの距離、学校、スーパーの位置やローンの計算はしきりに気にするが、ハザードマップを見る人がどれだけいるだろうか、ましてや古地図や地質図と照らし合わせる人などほぼ皆無であろう。ただ、地震の活動期に入ったこの日本列島においては、これからはそういう要素を優先して行かないと自らの命にかかわりかねないだろう。
残念ながら不動産業者が自発的にそうした情報を開示することは望むべくもないので、買う側が意識を高め、リスクが高い土地には見向きもしないようにならなければ、業者側にそういう住宅地を開発させない圧力は働かないであろう。
もう一つ気になる点は、住宅の耐震基準である。建築基準法上の耐震基準は定められているが、地域によって係数があり、要するに地震が多そうな地域ではより厳しめに、そうでない地域はすこし緩めてもよい的なルール(地域係数Z)があるそうなのだ。
これについて、熊本県では、0.9または0.8が設定されており、1.0の東京や大阪より緩めても構わないとなっているのである。しかし、厳しくするのは静岡県の1.2のみ、これはいわゆる東海地震を想定しての話だったのだろうが、前提自体が既に崩れているのではなかろうか。海溝プレート型の地震のうち、順番がまだ来ていない東海地震が近々来るかもしれないと以前に騒がれ出したが、おそらく明治ごろの濃尾地震がその代わりを果たしたので、東海地震だけが直近に来るという考え方は今では無意味である。にもかかわらずこの地域係数はその時の発想を引きずっているのではないだろうか。また、直下型に関して言えば日本どこでも震度7ぐらい起きてもおかしくないので、ここは下げてよい、という地域を設定する意味もわからない。
また、家を建てる際に気にした耐震等級も実はあてにならない。耐震等級3であれば、阪神淡路大震災級の震度7でも倒壊しないということにはなっているが、倒壊はしないだけで、無傷では済まない。さらにいうと、一発目を食らったときに倒壊しないというだけであって、益城町のように2回も震度7を食らうことは想定していないのである。要は最初の一撃ではとりあえず崩れないから命は助かる、その間に逃げる、という発想なのだ。益城町で倒壊家屋数の多い割には死者が少なかったのも、これによるところが大きいのだろう。
だから、家を建てるときは逆転の発想で、いずれは大地震で崩れるのだから、2回建てられるだけの予算を考えて建てる、というのはありかも知れない。そうすれば、運悪く崩れても何とかもう一度建て直せる。住宅メーカー(特に大手)は、ローン限度額いっぱいの予算で建てさせようとするが、その話には乗らない方がいいのだろうな、と強く思った。